2017年2月20日月曜日

医療用トリコーダーの実現


時代が進むことで、昔のSFが奇異に思えるようなことはよくある。抑揚のないコンピュータ音声や、わざとぎこちなく歩く人間型ロボットなどは、もはや過去の遺物である。スタートレックシリーズに出てくるトリコーダーもその一つだ。
トリコーダー本体、また医療用プローブを手に持って、あちこち探し回るような仕草がよく見られる。何を調べているのかは知らないが、そんなに動かさないと分からないものか。またその情報をあの小さなディスプレイに表示することもおかしい。音を発することも奇異に映る。
まあ、ファンにとっては余計なツッコミである。だがあえてこんなことを言うのは、特に医療において、これと類似の機器を作ることは可能になってきていると思うのだ。手に持てる小さなプローブと無線接続するスマホやタブレットがあれば、医療知識ゼロの未経験者であっても診察を受けられるだけの情報を得られるのではないか。
あまり知られていないが、マイク内蔵の聴診器や、喉を見るためのカメラなどは存在しているし、非接触で体温を測る温度計もある。呼気をガスセンサで計測することもできるし、筋硬度計でこわばりを見たり、カメラで発赤や湿疹・デキモノを撮影して腫瘍の危険度を測ることもできる。今までは触診に頼ってきたようなことも、センサで計測すれば数値化できるし、後の検証にもデータとして残るので使い易い。
もちろん、触診はタダでできるがセンサはカネが掛かる。だが一方で、触診には多数の経験と知識が必要だがセンサは不要だ。もし触診のような職人気質の技術を機械で代替できるなら、触診が苦手な医師や患者の助けになるし、何よりも遠隔診察に道が開ける。医者に頼らずとも、AIで予備診断ができるはずだ。
「非侵襲な初期診察用」と割り切れば医師免許は要らない。だから、例えば救急車に積んでおく。大企業では医療センタや健康センタに置いておく。宇宙飛行士や南極観測隊が持っていく。登山や探検などの危険スポーツに持っていく。離島や新興国、紛争国の医療ボランティアなどが持っておく。そういった使い方ができるのだ。
触診からの診断の体系は長年の経験で確立しているが、プローブで得られる情報はまた違うだろうから、診断可能な病気の範囲は当然異なってくるはずだ。だがこちらにはAIのバックアップがあるから、その得手不得手も早々に分かるだろうし、その実績を基にセンサの補強などでカバー範囲を広げ、何れは触診を追い抜く可能性すらある。
AIを背景に持てば初期診断にマンパワーは不要だから、裾野が広がっても医師の負担はさほど増えないし、侵襲診察が必要となったとしても、検査キットが発達してきているので、AIの初期診断に基づいて追加検査をするところまでは自動化できる。本当に生身の医者にお目にかかるのはその後、それ以上の診察をするか診断を聞かされるか、というところだ。
遠隔医療専門の医師が出てきたり、地球規模で時間帯毎にチームを組んで年中無休の簡易オンライン診断所を作るようなことも考えられる。一方で地域の診療所では、医師が休んでいても診察だけは受けられるようになり、年中無休にするところも出てくるだろう。それに伴って裾野は広がり、例えばショッピングモールやコンビニの隅に専用コーナーができる、ということも考えられる。
ここでのポイントは、従来では触診等で済まされていたか、あるいはいちいち専用の器具が作られていたところ、手のひらに収まる一つの「プローブ」で全てを済まそう、という方針である。例えば血圧計は侵襲と言えるのだが、非侵襲でどれだけ正確に血圧を測定できるか、あるいは従来触診や打診に頼っていた、内蔵や筋肉のこわばりや腫れをどうやって測定するか、というところに技術的焦点が向くことになる。

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